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A 作業船に取り組むことの方針決定
?@現状の認識と対応策の立案
前節で指摘したように、北海道の造船業においては、従来、顧客との安定的関係においての漁船建造を中心とした限定的な競争という経営土壌があったためか、顧客ニーズの察知・汲み上げに鈍感な印象を受ける。すなわち、使い勝手のニーズ把握を怠り、提案力(海洋土木事業者のいう『技術力』)に欠け、使用海象条件やオペレーターニーズとは無関係に漁船建造の延長上で「丈夫な船を造る」ことを最優先と考える傾向等がうかがえる点である、
起重機船を中心とした作業船の建造は、極めてシビアな経済原理と生産合理性に基づくものであることが瀬戸内地域の事情から察知でき、本来的な意味での『顧客志向』への回帰か求められている。
また、今後の公共工事の量的・質的な動向や瀬戸内地域の造船所の動向といった国内状況のみならず、中国船などを含めた国外の動向など、今後、道内造船業界が経営の舵取りに影響を受けると考えられる動向は複雑化と多様化が進展する考えられる。そうした経営を取り巻く外部環境の変化に積極的に適合を図るだけの、機敏かつ柔軟な経営体質が今後は従来以上に必要となると考えられる。
?Aターゲットとなる作業船に対応した取り組み
作業船市場の後発参入者である道内造船業者にとって、今後成功の鍵となるのは、持てる経営資源を特化集中的に活用し、特定分野において強みを発揮する戦略にある。
前節で分析したように、今後の海洋土木事業規模の横這化見込みと、それを受けての海洋土木事業者の作業船建造意欲の減退を主要因として、作業船需要は更新時期に当たっての代替需要が主流となることが予見される。さらに、今後とも期待できる水深の浅い港湾等の整備を目的として、100トン吊り以下の起重機船の代替として、使い勝手が良く、汎用性のある100〜150トン吊り程度の中規模クラスの起重機船需要の恒常性を指摘する海洋土木事業者が大部分を占める。こうした背景をにらみ、道内造船業界がまず力を入れて取り組むのは、こうした100〜150トン吊り級の起重機船建造であると考えられる。
さらにまた、瀬戸内地域の造船所では、パテントの取得によりその技術を自社の強みの核としている社もあった。道内造船所としても、絞り込んだターゲット船におけるパテント取得、あるいは技術的な強みを持つことを目指すべきであると考えられる。
中型クラスの起重機船に恒常的需要が存在する一方で工事の難工事化や消波ブロック等の大型化による起重機船の大型化も予想される。ヒアリング調査から、こうした大型船への一律的な代替更新は海洋土木事業者も考えていないことが明らかになったが、工事動向あるいは大型起重機船は転売が容易であるといった点を考慮した場合、中長期的には、起重機船の大型化が進展すると考えられる。そのため、将来的には250トン吊り程度の大型船の道内建造の実現が図られるよう、道内造船業もビジョンを抱いて取り組んでいく必要があろう。
さらに、作業船修繕に関しては、現時点では道内修繕を大部分の海洋土木事業者が志向してはいるものの、技術やサービス面などで海洋土木事業者が道内造船業者により一層の向上を求めている部分も多々ある。また、海洋土木事業者が現時点では自賄で修繕工事を行っている分の造船所による取り込みなども含め、今後の営業努力を含めた取り組み姿勢次第で受注に直結する部分もあると考えられる。道内造船所としては、現状に満足することなく、海洋土木事業者の修繕ニーズの発掘等に留意し、修繕工事のさらなる取り込み・掘り起こしに尽力すべきであると考えられる。

 

 

 

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